研究概要 |
19年度は,昨年度に入手し形態的な同定を終了したキタクシノバクモヒトデ標本を材料として遺伝子解析に着手した.標的遺伝子としてミトコンドリアDNA(mtDNA)上に存在し,多くの分類群において系統解析等に用いられているシトクロームc酸化酵素サブユニット1(coxl)を選び,PCRを用いたホモロジープロービングによりcoxl遺伝子の部分配列を決定することにした.Dneasy^(R) Tissue Kit(QIAGEN)により抽出した全DNAを鋳型とし,プライマーにはユニバーサルプライマー(例えばHillis et. al.,1996:Molecular Systematics Second Edition,Sinauer Associates,Inc.)の配列を,キタクシノバクモヒトデと同属で全mtDNAが配列決定されているOphiura lutkeni(AY184223)の配列で一部改変して用いた.実験を開始した当初は予想されるサイズの遺伝子断片の増幅が得られず苦慮したが,標的領域の周辺領域を順次配列決定することでキタクシノバクモヒトデcoxlに完全適合するプライマーを設計することができた.これらを用いることで,1285bpからなるcoxl部分配列が解析可能となり,産地が異なる数標本を用いて行った予察的な解析では,塩基置換率は0.2〜0.9%と低かったものの日本近海産のキタクシノハクモヒトデはcox1部分配列により大きく3つのグループに分かれることが示唆された. 一方,より精度の高い解析を可能にするためにはcoxl遺伝子のみの解析では不十分と考え,mtDNAの転写調節領域(d-loop)およびシトクロームb(cyb)の増幅断片を得る実験をcoxlの解析と並行して行った.d-loopは種内変異の検出に頻繁に用いられる領域で,先のO.lutkeniのmtDNA上にはd-loopと推定される領域が存在することから同領域の増幅を試みた.また,cybはcox1と並んで系統解析に用いられる遺伝子で,本研究においてはcoxlのプライマーを設計する過程において,そのC末端側の約300bpの配列をすでに得ているので,N末端付近にプライマーを設けて概ね全長カバーする領域を解析対象に加えたいと考えた. これらの試みは現在のところ成功していないが,両者のうちのいずれかは20年度初頭には完全適合するプライマーを得る必要がある.また,本研究では多くの個体を解析する必要があることから,早期に多数の材料を迅速に解析可能な系をつくりデータの蓄積に努める必要がある.
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