研究概要 |
20年度は,これまでに入手し形態的な同定を終了したキタクシノハクモヒトデ標本を材料として遺伝子解析を行った.19年度にプライマー設計を終えていたシトクロームc酸化酵素サブユニット1(cox1)の部分配列1285bpについて太平洋,オホーツク海,日本海からの39標本について配列を決定した.また,さらにより精度の高い解析を目指すために増幅を試みていた,シトクロームb(ctb)のプライマー設計に成功し,完全配列1141bpの配列を,上記39個体で決定した. まだ,全体の遺伝的構造の解析に十分な個体数に達してはいないが,調査海域を,北海道から北東北の太平洋岸,南東北の太平洋岸,日本海,オホーツク海の4海域に分けることにより,予備的な解析を行った.cox1には20のハプロタイプが認められ,そのうち4ハプロタイプが2つの海域に出現した.ctbでは26ハプロタイプが認められ,そのうち3ハプロタイプが2つの海域に,2ハプロタイプが3つの海域に出現した.一つの海域のみに出現したハプロタイプの数はcox1で15(75%),ctbで23(88%)であった. cox1の塩基多様度はオホーツク海が他の3海域よりも低く,cybかでは北海道から北東北の太平洋岸が他の海域よりも高かった.ペアワイズFst値は,cox1では北海道から北東北の太平洋岸と日本海の間,北海道から北東北の太平洋岸とオホーツク海の間で,ctbでは北海道から北東北の太平洋岸と他の3海域との間で有意差が認められた. これらの結果から,海域間の遺伝的交流が多少ともあるものの,海域による遺伝的構造の差が認められることが示唆される.高密度ベッドの地理的な遺伝的構造をはっきりさせるために,さらに多くの個体の配列データを蓄積し,詳細な解析を行う必要がある.
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