研究概要 |
初年度として、サンプルの取得を重点的に行った。相模湾深海底泥、相模湾鯨骨近傍底泥および鯨骨、鯨蝋サンプル、小笠原鳥島沖鯨骨近傍底泥サンプル、大西洋中央海嶺熱水噴出口サンプルを直接サンプリングまたは他研究者からの分与により得た。そのうち相模湾鯨骨サンプルを中心にDNA抽出を行った。まず比較的高密度に菌類が存在すると予想された鯨蝋抽出DNAを元に、菌類特異的プライマーの評価を行った。真核生物用のものを含む8つの組み合わせで調べたところ、18S rDNAの中間部を標的としたFUN0817とFUN1536の組み合わせによるPCRが感度および特異性に優れていたため、当面このプライマーセットを選択することとした。このセットを用いたPCRでは約6割のサンプルからのDNA増幅が確認され、さらにそのうちの半分から菌類クローンが検出された。検出された菌類クローンは分離源により大きく異なっていた。鯨骨由来および近傍サンプルではフンタマカビ菌綱(Sordariomycetes)に属するAcremonium属関連配列が大多数を占めた。これら配列は他の深海サンプルからは現れなかったことから、鯨骨の分解に深く関与する菌類群であると推測された。次年度以降の研究計画においてこれら菌群の分離培養を試みる予定である。小笠原鳥島沖鯨骨サンプルからはRhodotorula mucilaginosa、Galactomyces geotrichum、Candida boidiniiおよび未知担子菌類に関連する配列が出現した。これらは未知担子菌類以外これまでに同サンプルから単離培養されてきたものと同一であると思われる。大西洋中央海嶺からは小笠原鳥島沖サンプルから現れたものに加え、Trichosporon japonicus, Rhodotorula sphaerocarpum, Cryptococcus curvatus, Cryptococcus longus, Penicillium namyslowskiiに関連する配列が出現した。T.japonicus, R.sphaerocarpumはこれまでにしばしば深海から分離培養されているが、残りのものは深海からはクローンのみが報告されている。原始菌類としては鯨骨近傍底泥からツボカビ類、接合菌類と関連するものが極めて低頻度に取得された。次年度はこれらに照準を絞ったプライマーの設計も考慮する。
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