本年度は、主にサンプルDNAの抽出と菌類クローン解析、および菌類の単離と培養を実施した。サンプリングは、5月と2月に他研究者の協力により、相模湾初島沖メタン冷湧水域において実施した。うち5月に得たサンプルから、DNA抽出と系統解析、菌体の分離培養を行った。前年度に用いた、FUN0817とFUN1536に加えて、ITSとLSU rDNA領域を標的としたFUNITS1とLR6によるPCRを基に、菌類クローン解析を行ったが、過半数以上、場合によっては98%以上、Acremonium spp.関連配列により占められた。これらは前年度には鯨骨のみに現れたが、この結果により日本近海に普遍的であると推測された、鯨骨と異なりこれ以外の子嚢菌クローンは現れず、僅かにツボカビおよびMesomycetozoa関連クローンが現れた。これらは鯨骨とも、大西洋や小笠原等の大洋域とも異なる傾向である。一方で分離培養による結果はクローンに基づくものとは大きく異なっていた。134株を分離し、そのLSU rDNA遺伝子とITS配列を指標として同定した。接合菌類3株、担子菌5株を除く全てが子嚢菌類であったが、Acremonium spp.関連株は全く現れなかった。LSU rDNAの99%以上の相同性を同一種とみなした場合、81種が認められ、高い多様性を持つことが示された。そのうち25種35株が既知LSU rDNA配列に対して2%以上の差異を持っていた。また日本海溝より分離した菌類が新規系統かつ原始的と思われる形態を示したため、Dipodascus tetrasporeus sp.nov.として報告した。冷湧水域のAcremonium spp.の大量クローンはコンタミの可能性も捨てきれないが、鯨骨由来Acremonium spp.と栄養要求性の異なる株が存在しているとも考えられる。
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