研究概要 |
本年度は、主に深海サンプルからの菌類クローン解析と菌類の培養を試みた。2008年1月と12月に相模湾冷湧水域、7月に沖縄黒島冷湧水域にてサンプリングを計画した(黒島航海は中止)。まずこれまで使用していたDNA抽出キット(MOBIO社)に菌類の混入があることがわかったため、使用を中止しデータを破棄した。過去に現れたAcremonium spp.関連配列はこのキットの不良によることが判明した。よって別のキット(ニッポンジーン社)を代替とした。今回、1)培養法、2)底泥抽出DNAのPCRクローン解析法、の比較を行うことで菌類多様性を理解しようと試みた。培養法では、様々な条件下でコロニーを単離し、ITSおよび28S rDNAの配列に基づいて分子同定を行った。134株を分離した。接合菌類3株,担子菌5株を除く126株全てが子嚢菌類であった。LSU rDNAの99%以上の相同性を同一種とみなした場合、81種が認められ、高い多様性を持っていた。うち25種35株が既知配列に対して2%以上の差異を持っており、新種であることが推測された。高次分類群としては、フンタマカビ綱に属する分離株が約43%を占め最も多かった。クローン解析では得たクローンのうち約1/3がツボカビ類に属していた。これらは既知系統から大きく離れており、Basal Fungal Clone Lineage(BFC系統)とした。BFC系統は大きく分けて2タイプあり、それぞれBFC1、BFC2とした。BFC1は独自グループを形成したが,その位置は不明瞭であった。BFC2はRozella spp.とクレードを形成した。Rozella spp.はツボカビ寄生種であり、真菌類進化の最初期に分岐した可能性が報告されている。BFC系統は培養法では現れなかった。真菌類の初期進化において深海環境が重要な位置を占めていた可能性があることが示唆された。
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