筋小胞体Ca^<2+>-ATPase(SERCA1)はATPのγリン酸が酵素に転移したリン酸化中間体EPの形成、転換、加水分解を経てCa^<2+>を輸送する。EPの転換過程で本酵素の細胞質ドメイン相互の会合状態が大きく変化し、この変化が膜ドメインに伝わってCa^<2+>のlumenへの遊離がおこる。 1.筆者は、細胞質Actuatorドメインと膜ドメインのM1-helixを繋ぐlinker(Glu^<40>-Ser^<48>)の長さが適切であることがEPの転換から分解までの各過程、特にlumenへのCa^<2+>遊離に重要であることを見出した。これにより酵素内にCa^<2+>を閉塞したCa_2E2P中間体が初めて同定され、1段階で記述されていたEPの転換Ca_2E1P→E2Pが、2段階Ca_2E1P→Ca_2E2P→E2Pで起こることを明らかにした。このlinkerに発生するstrainが細胞質ドメインと膜ドメインの構造変化を連結させ、Ca_2E2P→E2PにてCa^<2+>脱閉塞・遊離を引き起こすと考えられる。 2.ダリエー病はSERCA2bの変異による常染色体優性遺伝表皮角化異常症である。筆者は、この病気の家系で報告された51種類の置換および削除変異について解析し、家系ごとの変異に依存して、異なる阻害メカニズムと程度のCa^<2+>-ポンプ活性異常を引き起こすことを明らかにした。これにより、多様なCa^<2+>動態異常が引き起こされることが予測された。 3.Ca^<2+>/Mn<2+>-APaseはゴルジ装置に存在し、Hailey-Hailey病の原因遺伝子であるが、表皮細胞でのその局在と機能的役割は不明であった。この酵素は正常表皮では基底層に局在し、ケラチン細胞を未分化に抑えることが示された。またその量的減少がケラチン細胞Go萄i装置内のMn2+の枯渇を引き起こし、その細胞の分化と基底層からの上昇を誘起することが示唆された。
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