研究概要 |
セリンパルミトイル転移酵素(SPT)はL-セリンとパルミトイルCoAを基質としてスフィンゴ脂質の基本骨格である長鎖塩基,3-ケトジヒドロスフィンゴシン(KDS)を合成する.SPTの反応機構に関しては,2つの対立する機構が提唱されてきた.1つは基質L-セリンの脱炭酸反応によってキノノイド中間体が生じ,次にアシル化が起こるという機構(A)であり,もう1つはL-セリンのα位の脱プロトン反応によってキノノイド中間体が生じ,アシル化と脱炭酸反応がその後に続くという機構(B)である.KDS生成がいずれの機構を経由するのかは長らく未定のままであった.非反応性のアシルCoA誘導体を有機合成し、大腸菌で発現させた組み換えSPTの精製標品を用いて、SPT・L-セリン・アシルCoA誘導体の三者の反応について時間分解スペクトルを測定した。想定した反応機構に基づいてグローバルフィッティング解析を行なったところ、キノノイド中間体を含む各中間体の吸収スペクトルを算出することができた。また、^1H-NMRを用いたSPTに結合した状態のL-セリンおよびD-セリンの重水中でのα位プロトンの交換反応の測定によって、アシルCoA誘導体の結合によってL-セリンα位脱プロトン反応(キノノイド中間体形成)が著しく促進される一方,D-セリンについてはアシルCoA誘導体の有無にかかわらずα位脱プロトン反応がほとんど起こらないことが明らかになった.以上の結果は、SPTの反応機構として機構(B)が妥当であるこどを示しており,また,L-セリンとの比較によってD-セリンは酵素の活性中心内でα位脱プロトン反応に適した立体配座をとれないためにSPTの基質になり得ないことが明らかになった.
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