変異体を用いたCa^<2+>結合測定法の確立と精度の向上 従来、筋小胞体Ca^<2+>-ATPaseの変異体を用いた解析では、発現量の低さからCa^<2+>結合を測定するのは非常に困難であったが、本研究ではメンブレンフィルトレーション法の洗浄液を工夫することにより、Ca^<2+>結合量を直接することを可能にした。 変異体を用いたCa^<2+>放出過程の解析 筋小胞体Ca^<2+>-ATPaseのTyr^<122>をAlaに変えた変異体(Y122A)では、定常状態でE2PCaが蓄積する。Tyr^<122>はCa^<2+>-ATPaseのE2Pで、細胞質ドメイン間に形成される疎水性結合のクラスター(Y122-HC)の中心に存在する。このクラスターに存在する他の6つの疎水性残基についてAla変異体を作成し、反応速度論的解析を行い、いずれの変異体においてもlumen側へのCa^<2+>の放出と結合の速度が野生型と比較して著しく低下していることを明らかにした。また、一部の変異体においてY122Aと同様に定常状態でのE2PCa中間体の蓄積が確認された。この変異体の内の一つL119Aについて、上記の方法を用いてリン酸化中間体からのCa^<2+>放出を直接測定したところ、リン酸化中間体の変換(EIPCa2⇒E2PCa2)よりE2PCa2からのCa^<2+>放出が明らかに遅いことが示された。以上の結果からCa^<2+>-ATPaseのCa^<2+>輸送反応におけるY122-HCの役割が明確になった。 野生型Ca^<2+>-ATPaseを用いた解析 一連の解析の中で新たに野生型Ca^<2+>-ATPaseでもK+が存在しない条件では、E2PのCa^<2+>に対する性質がY122-HC変異体と非常に似通っていることが明らかになった。Ca^<2+>-ATPaseの内腔側へのCa^<2+>放出機構にK^+イオンが重要な役割を果たしているという結果はCa^<2+>-ATPaseによるCa^<2+>輸送の分子機構を考える上で、非常重要な知見である。
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