アブラムシ細胞内共生系の維持に関わる分子的基盤を解明するために、宿主のモルフ(有翅又は無翅)や加齢が菌細胞内のブフネラ密度に及ぼす影響を、組織化学的・分子生物学的手法により詳細に解析し以下の成果を得た。 (1)有翅虫では最終脱皮前後の飛翔筋の形成時、また、無翅虫では産卵開始時にブフネラ密度が激減し、それぞれ分解したブフネラは飛翔筋発達と胚の発育のための栄養源として利用される可能性示唆した。 (2)ブフネラの密度減少に関わる分子的基盤を解明するために最終脱皮直後の有翅虫と無翅虫の菌細胞の間でプロテオーム解析を行ったところ、前者でCarboxypeptidase-vitellogenic like(CPVL)の発現が特異的に上昇していることを見出した。また、アブラムシCPVL遺伝子をクローニングし全アミノ酸配列を決定するとともに抗体を作製し免疫化学的解析から、アブラムシCPVLはプロセッシングおよび糖付加により活性化された後、リソソーム酵素としてブフネラ分解に寄与する可能性が示唆された。 (3)菌細胞内のリソソームの存在様式を色素染色法(LysoTrackerを使用)により調べたところ、有翅虫の菌細胞には非常に多様な形態のリソソームが出現していることを見出した。また、透過型電子顕微鏡観察により、ブフネラの最外膜(共生膜)とリソソームが融合した極めてユニークな構造体を見出すとともに、その構造の内部に分解途中と思われるブフネラと残余小体が存在することを見出した。 以上、本研究で得られた結果は、宿主昆虫の生理状態(需要)に応じて共生菌数の調整がなされていること、また、この調節に宿主リソソームが関与することを示した初めての例であり、細胞内共生機構を支える分子的基盤の一端の解明に寄与したばかりでなく、昆虫生理学や進化生物学の分野にも大きく貢献できたと考える。
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