本年度は、IP3レセプターがIRBITを細胞質に遊離する分子として働く可能性を示すべく、IRBITの細胞質での標的分子の探索と、その生理機能解明を行った。IRBIT標的蛋白質として、mRNAのpolyadenylationに関与する、Fip11という分子を同定した。IRBITは、Fip1を介して、CPSF複合体を中心とするmRNA polyadenylation machineryと結合しうることを明らかにした。この結合は、細胞質で起こり、また、IRBITのリン酸化状態依存的であり、t-BHQ等の細胞内酸化-還元状態を攪乱物質により、IRBITのリン酸化が亢進すると共に、IRBIT-Fip1複合体の量も増加することを見出した。このことは、IRBITが、このように細胞がストレスに曝された時、活性化された蛋白質リン酸化酵素によってIRBITがリン酸化されることで、Fip1を細胞質に「隔離」することで、核内でのpolyadenylation活性をネガティヴに調節する可能性を示すと同時に、IP3-IP3レセプターの下流でIRBITを介した、mRNApolyadenylation調節機構の存在を示唆するもので、細胞の刻々と変化する細胞外環境への対応機構の解明に近づく発見である。更に、構造上、IRBITに極めてよく似た分子であるLong-IRBIT分子を発見し、Long-IRBITとIP3レセプターとの結合活性、IP3レセプターに及ぼす機能について解析した。その結果、Long-IRBITはIRBITとは異なり、IP3レセプター結合活性を欠き、組織・細胞内での存在パターンもIRBITとは異なることを明らかにした。
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