脂質メディエーターを初めとするいくつかの情報伝達物質では、細胞内での生合成過程、その標的レセプターに結合した以降のシグナル伝達経路についての解析は良く進んでいるが、生成された細胞からどのような機構で分泌されるのかが未だによく分かってないものが存在する。私は、これが情報伝達におけるmissing-linkの1つであると捉え、このような放出機構の分かっていない情報伝達物質が特定の輸送体によって細胞外に放出されているのではないかとの仮定のもと、その放出機構を詳細に検討すると共に、輸送体本体の同定を目指している。本年度はスフィンゴシン1リン酸(S1P)の赤血球からの放出が輸送体を介した者である可能性を明らかにした。この赤血球からの放出は血小板とは異なり輸送の活性化に何の刺激も必要なかった。そこで赤血球の反転膜を用いることで、S1Pの輸送活性を測定できる系を確立した。S1PはATP濃度依存的に輸送され、その輸送はABCA型輸送体の阻害剤であるGlybrideによって阻害された。これは血小板の輸送体の性質と似ており、ABCA型の輸送体の関与が示唆された。そこで、ABC輸送体のA型ファミリーに属するオーファン輸送体の中からS1P輸送体の同定を試みている。これまでに血小板にABCA7が強く発現していることを見いだし、ABCA7のノックアウトマウスの作成を進めてきた。本年度、ノックアウトマウスの作出に成功した。ノックアウトマウスは正常に出産、生育し生殖能力に異常は認められなかった。また、形態上の顕著な異常は見られなかった。そこで、このマウスより血小板を調製し、刺激に依存したS1Pの放出を調べたが野生型と大きな違いはなかった。ABCA7の欠損により他のABCA型輸送体の発現量も変化していなかったことから、血小板からのS1Pの放出にはABCA7は関与していないことが明らかになった。
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