本年度は宿主由来のウイルス受容体活性を有する糖鎖分子の構造情報に基づき以下の研究を実施した。 1.デングウイルス受容体糖鎖分子生合成酵素の同定および遺伝子クローニング デングウイルス受容体として単離されたヒト糖鎖分子構造を合成する酵素(糖転移酵素)遺伝子を取得し、この遺伝子を受容体糖鎖が発現していないウイルス非感受性細胞に導入、安定発現細胞を確立した。この遺伝子産物である受容体糖鎖の細胞表面発現をFlow cytometerを用いて解析した。本安定発現細胞を用いることで、細胞表面でのウイルス-受容体糖鎖の相互作用および感染初期段階の細胞内侵入のメカニズムを解明することが可能となった。 2.受容体糖鎖-ウイルスとの親和性解析 表面プラズモン共鳴法により、インフルエンザウイルス粒子と受容体糖鎖分子との親和性を解析した。さらに受容体糖鎖分子を模倣した一群の水溶性人工糖化合物を合成し、それらのウイルスに対する結合性の変化を高感度、微量で測定する方法を確立した。本化合物を検出プローブとして用いることで微量、迅速かつ安全に病原性ウイルスの宿主適応性の変化を解析することが可能となった。 3.可溶性組換え体糖転移酵素発現系の構築とタンパク質精製 組換え体転移酵素の大量発現系を大腸菌で構築した。糖転移酵素遺伝子断片を可溶性型酵素としてマルトース結合タンパク質(MBP)およびHisタグとの融合タンパク質となるようにクローン化し、大腸菌株に導入、酵素発現大腸菌クローンを取得した。発現酵素を効率よく精製する方法を確立した。 以上、ウイルス感染に対する宿主側機能制御因子としての糖鎖分子群について包括的に研究を行い、受容体糖鎖機能の発現制御に関わる重要な知見を得た。これらの成果は、ウイルスに対する宿主側因子としての糖鎖の機能発現およびその制御機構の解明につながるものと期待できる。
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