研究概要 |
近年,活性酸素種(ROS)による細胞内レドックス環境が種々の細胞内シグナル伝達系に関わっている事を示す報告が多くある.我々が研究を重ねて来たキサンチン酸化還元酵素はROS産生系の重要な酵素系の一つである.本酵素の酵素学的機能と構造を研究する中で,近年本酵素の結晶解析に成功した.構造から,本酵素が生体内で天然に存在する脱水素酵素型からオキシラジカルを大量に産生する酸化酵素型に変換する機構を見いだした。本酵素はサブユニット150kDaのホモダイマーで,非ヘム鉄,FAD,モリブドブテリン(MOP)を有する複合酵素である。FAD, MOPドメインに存在するCys535とCys992,C末端のCys1316とCys1324の各ペアがジスルフィド結合をつくる事で可逆的に酸化酵素型に変換する事を証明した.又フラピンの裏面に存在する特異なアミノ酸クラスターがCys535-Cys992のジスルフィド結合を生ずる事で破壊され,それに続く電荷に富んだGln422-Lys432のループがNADの進入路を妨害しFADとの結合を妨げる.ループの大きな位置移動に伴ってフラピン周囲のイオン環境が変わると同時に,クラスター崩壊による溶媒侵入も,酸素と反応しやすい環境を与え酸化酵素型に変換すると考えている.従って18年度はアミノ酸クラスターを構成するTrp335をAlaに変異させ,クラスターを破壊し,更に酸化還元電位を調節していると考えられるフラピン裏面のPhe336をLeuに変異させたラット酵素W335A/F336Lを昆虫細胞系で大量発現させた.精製酵素の生化学的性質を明らかにし,2.3Åで結晶解析を行った.この変異酵素は酸化酵素型として発現し、DTTで還元しても酸化酵素型としての性質を示した。キサンチンからわたる電子のうちオキシラジカル産生に流れる割合を測定すると,DTTでの処理に関わらず約75%であった.各臓器に生理的条件で存在する天然型脱水素酵素と本変異酵素を比較するとオキシラジカルの産生量は約15倍にも達する事が分った.今後この変異酵素を各細胞や臓器で発現させて,予想される変化を解析する.
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