研究概要 |
我々は、本研究で舌上の味を感じる味蕾の特に味孔(taste pore)にどのようにして味覚受容体が集中しているのか、その分子基盤に注目した。この味覚受容体の細胞膜上の挙動に関連して、興味深い事が報告されている。即ち、第一に多数同定されてきた苦味受容体T2Rファミリーは、通常の培養細胞に発現させてもいずれも細胞膜にターゲットされないのである。一方、嗅覚受容体も、味覚受容体同様に自分自身では細胞膜にターゲットできない受容体として知られていたが、嗅覚受容体を膜に移動させるRTR、REEPファミリーが2004年に発見されたのである。これらのことから、味細胞には味覚受容体を細胞膜にターゲットさせるシステムが存在することが強く示唆される。そこで、本研究では、味覚受容体の味孔集積にアプローチする第一段階として、味覚受容体の細胞膜ターゲット機構を明らかにする事にした。一方、小腸由来の培養細胞であるSTC-1細胞は、小腸由来でありながら幾つかの味覚受容体の発現が報告されていた。そのためこの細胞には味覚受容体を細胞膜にターゲットして機能させる機構が存在すると考えらる。そこで、本研究では、このSTC-1細胞をモデルに研究を進め、以下の検討を行った。 (1)STC-1細胞が生理的にどのような味覚システムを持っているか、各味に対する応答性をカルシュームイメージング法で解析した。結果、STC-1細胞が苦味、甘味、塩味、酸味、うま味全ての5味物質に応答できることを発見した。また、各種の味物質を用いて解析した結果、苦味、酸味、塩味の受容システムは舌と類似したシステムであるが、甘味のシステムは、砂糖・人工甘味料の反応性から感受度が舌とは異なるシステムであること、またうま味のシステムはイノシン酸による増強を示さない舌より高感度システムであることが分かった。 (2)STC-1細胞に味覚受容体の細胞膜ターゲット能があるか、味覚受容体の代表として苦味受容体mT2R8、通常の受容体としてアセチルコリンM1受容体を用いて検討を行った。結果、まず味に応答しないHEK293細胞は、M1を細胞膜移行させるが、mT2R8は移行出来ないこと、一方STC-1細胞はM1を移行出来るだけでなく、発現効率が低いものの発現されればすべてのmT2R8を細胞膜に移行出来ている事が判明した。 (3)STC-1細胞がどのRTPファミリー、REEPファミリーを発現しているか、受容体膜移行因子の探索を行った。結果、RTPファミリーの発現は、NIH3T3とSTC-1細胞で違いはないこと、ところがREEPファミリーでは、STC-1細胞にREEP1,2,4,6が高発現していることが明かになった。
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