研究概要 |
ATP合成酵素(F_0F_1-ATPase)は,ミトコンドリア内膜,葉緑体チラコイド膜,細菌の細胞膜にあって,相対的に回転し合う二つのサブユニット複合体からなる分子モーター酵素である.プロトン輸送路を通るイオン輸送と触媒部位における化学反応との共役は酵素分子内の回転によって仲介され,連続的な一方向への回転が細胞のATP合成に必要と考えられている. ATP合成方向の回転を生み出すのは呼吸鎖によって形成されたプロトン駆動力であるが,三ヶ所ある触媒部位の中央で回転しているγサブユニットとεサブニニットによって回転方向の制御が成されている可能性があるため,平成18年度は,大腸菌酵素γサブユニット変異株の解析を主に行なった. γサブユニットの一アミノ酸置換によって酸化的リン酸能が低下した23変異株を解析した所,触媒サブユニット複合体の中央を貫いて伸びるαヘリックス領域に起きた二種類の興味深い変異が見つかった.一つは,ATP分解に伴う連続的な回転が起きなくなる変異,もう一方は,プロトン輸送路の回転がATP合成に結びつかない変異と考えられた.これらの酵素では,γサブユニットの変異によってεサブユニットのカルボキシル末端領域がATP/ADP比率に応じた構造変化をしなくなっている可能性があるので,詳紬な回転の性状解析とアミノ酸残基の架橋によるεサブユニットの構造変化を検討する必要がある.γ-εサブユニット間の相互作用と回転方向の制御に関する解析をさらに行ない報告する予定である.
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