研究概要 |
ATP合成酵素は,プロトンが輸送路を通るとき回転子と固定子のユニットが回転し合うことで,プロトン駆動力とATP合成/分解のエネルギー変換を共役させるエネルギー変換分子モーター酵素である.このエネルギー共役のために,ユニットは連続的に一方向に回転する必要がある.γサブユニットが回転方向の制御に関わる可能性があると考え,化学反応とプロトン輸送の能力が一致しないγサブユニット変異株を新たに単離して解析した. γサブユニット遺伝子にランダムな変異を導入し,酸化的リン酸化による生育ができない変異株を単離した.そのうち,γSer12GlyとγLeu219Proの変異酵素は,ATP加水分解に見合ったプロトン輸送が見られなかった.ウシ酵素の構造からは,γSer12残基は触媒サブユニットの中央で回転するγサブユニットのアミノ末端側ヘリックス領域にあり,ウシ酵素の構造から,βサブユニット側の軸受け部分にあたるβAsp372残基と水素結合を形成していると考えられる。γLeu219残基はカルボキシル末端側の長いヘリックスに位置し,Proに置換してヘリックスの方向を部分的に変化させるたと考えられた. また,本酵素の回転制御の機構を明らかにするため,以前に回転速度が低下することが示されたβサブユニットの変異酵素と,その復帰変異酵素の回転の性状を詳細に解析した.βSer174Phe変異酵素ではATP分解あるいは生成物遊離のステップにおける停止が見られたが,βIle163Alaを加えた復帰変異酵素ではそれが解消された.構造計算と合わせて考えると,βIle163とβPhe174変異残基の間で形成される疎水性相互作用がβIle163Alaによって解消され,生成物遊離と共に起こるヌクレオチド結合部位付近の構造変化が速やかになったと考えられた.
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