今年度は、血漿中の可溶型ST6Gal Iを検出するためのサンドイッチELISAシステムを確立し、マウス、ラット、ヒト血漿サンプル5マイクロリットル程度で定量可能であることを明らかにした。このサンドイッチELISAを用いて作成した肝小葉zone1またはzone3の傷害ラットモデルの解析を行った。 アリルアルコール投与によってzone1に傷害を起こしたラットの場合、通常の肝炎マーカーが増加しないにもかかわらず血漿中のST6Gal I量の有意な増加を認めた。尚、このzone1傷害ラットにおいては血漿中のα2マクログロブリンやハプトグロビンが増加していた。このため、肝臓に急性期反応が生じ、肝臓内のST6Gal I mRNAが増加したことが分子的背景であると考えられた。 次にプロモベンゼン投与によってzone3に傷害を起こしたラットについても解析を行った。この場合は薬剤投与24時間後に肝炎マーカーであるASTおよびALTは増加した。興味深いことに薬剤投与8時間後とかなり早い時間に血漿中のST6Gal Iが増加していた。Zone3傷害ラットの肝臓におけるST6Gal IおよびBACE1発現の増加は見られなかったものの、プロモベンゼンの作用機構から酸化ストレスがST6Gal I分泌増加の引き金となっていることが予想された。 以上の結果は、血漿中のST6GalIは肝疾患バイオマーカーとしての有用性を示唆するものであり、今後はウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、肝硬変、肝癌などのヒトの臨床サンプルへの応用を行っていきたい。
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