研究概要 |
光合成水・キノン酸化還元酵素である光化学系II蛋白質複合体におけるキノン分子の構造・機能を調べるため、光誘起フーリエ変換赤外(FTIR)差スペクトル法を用いて、第一キノン電子受容体Q_Aの酸化還元電位と水素結合構造の関係を調べた。第ニキノン電子受容体Q_Bの結合部位に様々な除草剤を結合させ、酸素発生系S_2状態とQ_<A->の電荷再結合による熱発光グローカーブと光誘起Q_<A->生成の際のFTIR差スペクトルを測定した。熱発光のピーク温度は、フェノール系除草剤(bromoxynil,ioxynil)を加えたときには低下し、その他のタイプの除草剤(尿素系:DCMU、ウラシル系:bromacil、トリアジン系:atrazine,terbutryn)を加えたときには上昇した。このことは、前者ではQ_Aの一電子還元反応の酸化還元電位が低下し、後者では逆に上昇することを示している。またFTIRスペクトルにおけるQ_<A->セミキノンアニオンのCO伸縮振動は、後者に対して前者では約1cm^<-1>程低い振動数を示した。密度帆関数法を用いた量子化学計算による解析から、この振動数差は、プラストキノン分子のカルボニル基への水素結合強度の違いを示すことが示された。また、bromoxynil及びioxynilが持つCN基の伸縮振動がFTIRスペクトルに観測され、その振動数と有機溶媒中における測定結果から、これらの除草剤はQ_B部位に脱プロトン化して結合していることが明らかとなった。これらの結果から、フェノール系除草剤は、恐らくQ_B部位のD1-His215に水素結合し、His-Fe^<2+>-His架橋構造を介してD2-His214とQ_Aとの水素結合強度を変化させ、その酸化還元電位に影響を与えることが示された。このことは、Q_A及びQ_Bの酸化還元電位はその水素結合構造によりコントロールされ、Q_AからQ_Bへのスムースな電子移動を実現していることを示している。
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