本年度は、アミロイド性凝集に対するトランスグルタミナーゼ(tTGase)修飾の効果を検討するために、アミロイド性モデルペプチド分子を用いた実験・シミュレーション系を構築し、引き続いて、その系を用いた凝集実験・分子動力学計算を実施した。ターゲットには、tTGase修飾の関与がよく知られているアルツハイマー病関連のタウタンパク質とハンチントン病関連のポリグルタミン分子を選んだ。 1.タウの一次配列のごく一部分が、その凝集にとりわけ重要であることが、既にわかっている。我々は、この小ペプチド部分を人工合成し、さらに、そこに含まれるグルタミン残基をtTGase修飾し、凝集特性や構造特性の変化を解析した。また、他の化学修飾(リン酸化修飾など)の効果とも比較した。それによって、ペプチドの如何なる分子構造変化がアミロイド生成に対して寄与するかを解明しつつある。例えば、VQIVYKという配列のペプチド(PHF6と呼ばれる)を修飾した一連のモデルペプチド群の間の比較検討を行い、その成果の一部を論文発表した。また、同様の実験研究を、人工合成したポリグルタミン分子についても行い、このグルタミン側鎖のtTGase修飾が、ペプチドの凝集特性に強い影響を与えることを見出している。これについても、詳細にデータをそろえて近々に論文発表を行いたい。 2.上述の実験結果を補完し分子論的解釈を行うため、モデルペプチド及びそのtTGase修飾体の会合過程をコンピュータ空間上で再現する試みを進めている。例えば、上述のPHF6分子を数個と水分子数千〜数万個を含む系について、全原子分子動力学計算を行っている。このシミュレーションには長時間の計算が求められるため、まだ研究半ばであるが、19年度も継続して計算・解析を行い、実験結果と総合して、tTGase修飾がアミロイド性凝集に与える影響を、詳細に解明したい。
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