研究概要 |
脊椎動物の視覚情報伝達系には明暗視を担う桿体系と昼間視を担う錐体系が存在し、独立の分子群が関与している。本研究では、これらの過程で細胞内外において、どんな反応がどの時間にどのように起きているのか分子レベルで記述することを目指した。具体的にはジーンターゲティングによる分子置換(ノックイン)が可能なマウス網膜をモデル系として、視覚の基本反応過程を生物物理学的レベルで完全に理解することを目指した。桿体光受容蛋白質ロドプシンの遺伝子座に122番目のアミノ酸を置換した部位変異的ロドプシンと、同じ遺伝子座にマウス緑色感受性錐体光受容蛋白質をノックインしたマウスを駆使することにより、同一の視細胞中でロドプシンに起因するシグナルと錐体光受容蛋白質に起因するシグナルを区別して解析することができた。一光子を吸収したときに起きる電流変化は野生型のロドプシンを含む視細胞に対してそれぞれ4/5,1/3で、光受容蛋白質の中間体安定性などの性質が視細胞応答に与える影響を生体内で検証することができた。また、これらの成果を医学・人間工学に反映するため、よりヒトに視覚システムが類似している霊長類の視覚についても分子レベルでの解明を進めた。蛋白質の熱安定性や薬剤耐性などこれまで注目してこなかった性質についてニホンザルとウシロドプシンを比較すると、ニホンザルのロドプシンの方が不安定であることがわかった。両者のアミノ酸配列を比較すると、15残基の違いがあるが、このうちウシロドプシンの立体構造を参考に機能の違いに関係すると考えられる部位を選び出し、部位特異的変異蛋白質を用いて新たな機能部位の探索を行った。その結果、膜貫通領域に存在する複数のアミノ酸残基がこれらの性質に関与していることが示唆された。
|