RNAポリメラーゼIIが転写反応で遺伝子の3'側の特定領域に到達すると、合成されたmRNAの3'側領域が一箇所、選択的に切断され、転写反応は終結する。その後、切断された部分にはポリAが付加される。一方、ヒト遺伝子のおよそ30%にポリA付加部位の多様性が見出されている。このことから、ポリA付加部分の切断部位には、選択的な制御機構が存在すると考えられる。そこで本研究は、mRNAの3'側切断因子の1つであるCF-I複合体に着目し、分子生物学的および生化学的解析によって、mRNAの3'側切断箇所決定の分子メカニズムの解明を目的とした。CF-I複合体は分子量の異なる3つのサブユニットCFIm25、CFIm59とCFIm68からなり、前年度にCFIm25に対するポリクローナル抗体を作製した。CFIm25の減少した細胞ではTIMP-2、syndecan2、ERCC6の遺伝子で複数のポリAサイトの最も5'側が優先的に使われることを発見したので、CFIm25に対するポリクローナル抗体を用いてクロマチン免疫沈降により解析を行う予定であった。しかし、ウエスタンブロット解析からポリクローナル抗体の特異性が低いことが判明した。そこで、CFIm59とCFIm68に対する特異抗体を取得し、さらに、バキュロウイルス発現系を用いてCFIm25、CFIm59とCFIm68の組換えタンパク質を作製しウエスタンブロット法によりそれぞれの抗体の特異性を確認した。抗体の特異性は高いものの免疫沈降効率が低かった。今回作製した組換えタンパク質は生化学的な解析に用いることができるので、CF-I複合体の分子構造の理解が増進することが期待される。また、ゼブラフィッシュCFIm25(zCPSF5)のcDNAクローニングに成功し、ゼブラフィッシュを用いた個体レベルでの解析が進展することが期待できる。
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