熱ショック転写因子HSF1は熱ショック遺伝子だけでなくサイトカイン遺伝子などの発現制御にも関与している。申請者らは、HSF1によるIL-6遺伝子の発現制御の分子機構を、マウスの胎児繊維芽細胞(MEF)および腹腔マクロファージを用いて調べた。 (1)構成的およびLPS刺激後のIL-6の発現を調べたところ、HSF1-/-MEFではIL-6発現が低下しており、アデノウイルスを用いてHSF1を導入することでIL-6の発現が回復した。 (2)HSF1はIL-6遺伝子のプロモーターに構成的に結合しており、この結合がIL-6造伝子の発現誘導に必要である。 (3)IL-6遺伝子の発現誘導にはDNA結合能をもつ3量体HSF1が必要である。 (4)HSF1によるIL-6転写促進効果は、PMA、インターフェロン、血清などの刺激に対しても協調的に働く。 (5)HSF1欠損細胞では、NF-kBやATF3のIL-6遺伝子プロモーターへの結合が抑制された。 (6)ヒストンアセチル化阻害剤であるトリコスタチンA、DNAメチル化阻害剤アザシチジンでHSF1-/-MEF細胞を処理したところ、IL-6の発現が野生型の細胞と同じレベルまで回復したことから、HSF1によるIL-6遺伝子の発現制御がクロマチンの構造変化によることがわかった。 (7)野生型およびHSF1-/-MEF細胞を用い、制限酵素によるIL-6遺伝子上流のDNA切断の効率を調べたところ、野生型MEF細胞では、クロマチンが開いた状態であることが確認できた。 以上のことから、HSF1はIL-6遺伝子の熱ショックエレメントに結合することによって、クロマチンの構造変化を引き起こし、その結果、転写活性化因子NF-kBや転写抑制因子ATF3の結合を促進することによってIL-6遺伝子の発現を制御するという、全く新しい分子機構を明らかにすることができた。
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