再構成クロマチン系を用いて、MSK1によるピストンH3のリン酸化を再現できる系を開発し、そのメカニズムを検討した。特に、MSK1の変異体を作製・精製後にピストンH3リン酸化に関与る機能領域を明らかにした。MSK1にはCREBと相互作用する領域がアミノ末端とカルボキシル端に存在した。両者ともにCREB依存性のMSK1によるピストンH3リン酸化に必要であるが、アミノ末端を欠失するとリン酸化反応がCREB依存性でなくなるうえに、過剰なリン酸化反応がみられ、アミノ末端はリン酸化をCREB依存性に制御するのみならず、リン酸化反応を抑制していることが分かった。カルボキシル末端を欠失するとCREB依存性がなくなり、MSK1によるクロマチン上のピストンH3のリン酸化は見られなくなった。どちらの変異体もHMGN1のリン酸化は正常に起こるため、ヒストンH3のリン酸化とHMGNlのリン酸化は異なる機序で起こることが分かった。また、クロマチン免疫沈降法にてMSK1のc-fos遺伝子上での挙動をみると、c-fos遺伝子の活化とともにMSK1のプロモーターへの結合が増加することが分かった。この減少は、CREBやATF1のリン酸化やピストンH3のリン酸化に先行して見られた。また、CREBとMSK1の結合はATPの存在で阻害されるが、この際にMSK1の構造変化が起こること、さらにCREBのセリン133以外の部位でのリン酸化が関与していることが分かった。MSK1によるヒストンリン酸化は多段階の構造変化とリン酸化を経て巧妙に制御されていることが分かった。
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