研究概要 |
S期のDNA複製阻害により誘導される複製チェックポイントは、シグナル伝達因子のリン酸化、修復因子の損傷部位への移行、姉妹染色体の接着の促進など、複製中のゲノムを巡る、きわめて動的な変化を誘導することが知られているが、これら膨大な分子群の動態が時空間的にどのようにコーディネートされているか明らかでない。 本年度は、S期に必須であるCdc7キナーゼと遺伝的に相互作用する酵母ctf4/mcl1のヒトホモログAND-1に着目し機能解析を行った。ヒトAND-1の局在は複製に伴い染色体に結合した。RNAiによるAND-1の発現抑制を行ったところ、48-72時間後に激しく細胞死を誘導して増殖が抑制され、DNAの断片可、γH2AX陽性細胞の増加も観察されることからDNAの損傷が誘導されていることを示した。また、S期の進行の遅延やDNA合成の低下も観察された。さらにAND-1を発現抑制した細胞では、紫外線照射やヒドロキシ尿素添加時のチェックポイント活性化が部分的に阻害されていた。特異抗体を用いた共免疫沈降法により相互作用因子の同定解析を試みたところ、染色体接着に必須なコヒーシン分子Smc1,Smc3,Rad21や複製因子Mcm7がAND-1と相互作用することを見出した。また、AND-1をノックアウトした細胞では染色体接着依存的な相同組換え修復の効率が著しく低下していることを見出した。 これらの知見から、ヒトAND-1はコヒーシン分子や複製因子の結合の足場として複合体形成を促進し、DNA複製、チェックポイントの活性化、DNAの組換え修復およびDNA損傷の抑制を協調的に制御してS期のゲノム安定性維持に重要な役割を果たすと推測される。今後、AND-1の機能を分子レベルで明らかにすることにより、癌などゲノム不安定性に起因する疾患に有効な治療法の開発などに応用できると考えている。
|