N-結合型糖鎖の生合成に関わる糖転移酵素であるGnTIII、GnT-VまたはFut8遺伝子を導入または欠損させることによって糖鎖リモデリング細胞を確立することと同時に、このような糖鎖リモデリングによるインテグリンなどの細胞接着分子やEGFレセプターまたはTGF-βレセプターなどの増殖因子受容体の機能へ影響を解析した。我々は、GnT-IIIがGnT-Vのアンタゴニストであろうと考えた。がん転移・浸潤と深く関わる標的分子インテグリンα3β1を用いて、その仮説を証明した。基底膜の主な成分であるラミニン-332上でのインテグリンα3β1を介したがん細胞浸潤は、細胞にGnT-III遺伝子を導することによって阻害されたが、逆にGnT-Vの発現によって促進された。このGnT-Vによるがん細胞浸潤の促進はGnT-IIIの発現によって著しく抑制された。また、インテグリン25鎖の12カ所N-結合型糖鎖付加サイトの中に3-5番が機能発現に重要であることを同定した。それに加えて4番に特異的にGnT-IIIの修飾を受けることを明らかにした。さらに、β1鎖の機能発現に重要な糖鎖付加サイトをも同定した。一方、インテグリンα3β1やα6β4の特異的なリガンドであるラミニン-332の機能については、GnT-IIIの修飾によってその機能が著しく阻害されることを初めて明らかにした。このような細胞接着分子におけるN-結合型糖鎖の機能解析は、生理的な分子間相互作用を含め細胞内シグナリングの調節、また炎症、感染、がん、さらにがん転移などの病理的な過程をより良く理解するのにとって不可欠と言える。今後、糖鎖構造の改変による複合体形成、またその複合体を介するシグナル伝達に関る研究は、より一層の研究の推進が必要である。
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