自然免疫系において重要な役割を果たすToll様受容体(TLR)の多くは、炎症性サイトカインの一つであるIL-1βと類似の機構で細胞内シグナル伝達を行い、MAPKKKファミリーの一つTAKIを介して転写因子NF-κBを活性化する。これらの刺激によるTAK1の活性化は一過的であるが、一旦活性化されたTAK1を速やかに不活性化させる機構は未だ不明である。そこでこの機構を明らかにすることを目的とし、それに関わる因子の探索および作用機序の解析を行った。まず、精製用の複合型タグを融合させたTAK1(TAP-TAK1)発現プラスミドを構築し、TAP-TAK1を安定発現するHeLa細胞株を樹立した。この細胞をIL-1で刺激後、TAK1を含むタンパク質複合体を精製して質量分析を行った結果、新規TAK1結合タンパク質として、E3ユビキチンリガーゼXを同定した。レポーターアッセイを用いた解析の結果、XがTAKIによるNF-κBの活性化を強く抑制すること、またこのとき、TAK1の活性化因子であるTAB1の発現量がX依存的に減少することを見いだした。siRNAでXをノックダウンした細胞では、IL-1刺激後のTAK1の活性(TAB1のバンドシフトを指標に検出)がコントロールsiRNAを導入した細胞よりも高いことがわかった。以上のことから、XはTAB1の分解を介してTAK1を負に制御している可能性があると考えられる。この制御機構はTLRシグナル伝達経路においても同様であると予想される。本研究の成果は、未解明のままになっている自然免疫系におけるTAK1の負の制御機構の理解に貢献するものであり、将来、炎症性サイトカインの過剰産生が問題となる敗血症などの致死的な急性炎症の新たな治療薬の開発につながる重要な知見の一つになると考えられる。
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