1)Utrohin/dystroglycan(Htr/DG)複合体の局在制御を介した機構 Utr/DG複合体は、上皮細胞のbasolateral膜に局在し細胞外の基底膜形成に必須な役割をしているタンパク質群である。我々は、PAR-lbがこの複合体と相互作用し、その膜への局在を制御していること、そしてそのことを介して基底膜主成分であるlamininの細胞膜表面への集積を抑制していることを明らかとした。今年度においては、こうした知見の論文化にあたって弱点として指摘を受けた諸点、特に、(1)PAR-lbが直接、lamininの細胞外への集積に影響を与えていないこと、および、(2)PAR-lbのキナーゼ活性の関与する具体的な分子機構、の二点を明らかにすべく努力した。特に(2)に対しては、「PAR-lbがbDGの細胞質領域の特定のセリン残基をリン酸化し、この領域の構造を大きく変化させること」、および「PAR-lbは、bDGの細胞質領域とUtrophinとの相互作用をキナーゼ活性依存的に制御すること」を新たに発見した。現在、これらの知見を加えて、最終的に論文を完成させる努力を進めている。 2)新たなPAR-l結合タンパク質を介した機構 一方、Utr/DG複合体の研究を進める中で、PAR-lbが上皮細胞極性に働く機構は、この複合体を介したもの以外にも存在することが明らかとなってきた。よって、TAPタグを利用した新たなPAR-lb結合タンパク質を同定する方法を開発し、新たな結合タンパク質を同定する努力を開始した。その結果、これまで見つかってこなかったPAR-lb結合タンパク質候補が多数、質量分析によって同定され、その中には、アクチン重合制御因子や、細胞内小胞輸送系の因子が含まれていた。現在、これらの因子とPAR-lbとの結合を確認するとともに、その結合の生理的意味について研究を進めているところである。
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