1)我々は本研究開始前までに、PAR-1bが基底膜主成分lamininのreceptorであるutrophin/dystroglycan複合体に結合し、そのbasolateral膜への局在を制御していること、そしてそのことを介してlamininの細胞膜表面への集積を抑制していることを明らかとしていた。本研究期間においては、この知見を論文化するにあたって弱点として指摘を受けた諸点、(1)PAR-1bが直接laminiの細胞外への集積に影響を与えていないこと、(2)PAR-1bのキナーゼ活性の関与する具体的な分子機構、の二点を明らかにすべく努力した。(2)については、「PAR-1bがbDGの細胞質領域のセリン814をリン酸化し、この領域の構造を大きく変化させること」、「PAR-1bは、bDGの細胞質領域とUtrophinとの相互作用をキナーゼ活性依存的に制御すること」、さらには「PAR-1bがaDGのlaminin結合に必須な糖鎖修飾をも制御していること」を新たに発見した。残念ながら本研究成果の発表を期間中には実現できなかったが、そのための大きな進展を作ったとともに、今後の新たな展開のための数多くの知見を蓄積した。 2)一方、上記研究を進める中で、PAR-1bが上皮細胞極性に働く機構は、この複合体を介したもの以外にも存在することが明らかとなってきた。よって、TAPタグを利用した新たなPAR-1b結合タンパク質を同定する方法を開発し、新たな結合タンパク質を同定する努力を開始した。その結果、上皮細胞内で非常に強くPAR-1bと結合し、興味深い特性を示す新たなタンパク質の同定に成功した。その点でも、本研究が目指した上皮細胞極性制御機構のさらなる解明に大きな礎を作ることが出来たといえる。
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