小胞体ストレスとは、小胞体内腔を通過していく分泌タンパク質や膜タンパク質の構造形成にトラブルが起き、構造異常タンパク質として蓄積した状態を言う。過大な小胞体ストレスは病因になるとされているが、小胞体ストレスは正常な筋分化過程においても発生し、カスパーゼ活性化とアポトーシスの誘導に関わっている。本研究課題では分化誘導によって生じる小胞体ストレスを積極的に増大させることでアポトーシスと筋管形成の両方が促進されることを示した。培養筋芽細胞を小胞体ストレス誘導剤で処理してから分化培地に移すと、小胞体ストレスを付加しない場合に比べてアポトーシスが数倍亢進した。生き残った細胞の分化効率は顕著に上昇した。さらに小胞体ストレスがどのようにして筋分化過程における筋芽細胞の生死決定に関わっているかについて検討した。筋分化過程の開始とともに成長因子IGF-IIの発現が高まることが知られている。IGF-IIを分化培地に添加すると分化初期のアポトーシスが著しく抑制され、筋芽細胞の生存が促進されることを確認した。ストレスを付加した条件下ではIGF-II前駆体の合成が低下した。IGF-IIは細胞外に分泌された後、マンノース6リン酸化タンパク質受容体によって細胞内に取り込まれて分解される。この過程を阻害するマンノース6リン酸化タンパク質はストレス付加によって著しく減少し、IGF-IIに対する分解抑制効果が低下していた。小胞体ストレスはIGF-IIのレベルを下げる効果を発揮し、筋芽細胞にアポトーシスを誘導する環境を作っていることが示唆された。また、アポトーシスを起こした筋芽細胞においてはBcl-xLの量が生細胞に比べて著しく減少していた。Bcl-xLのレベルが筋芽細胞の生死を決定する要因の一つであると考えられる。
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