18年度はニワトリcnil遺伝子産物の発現部位検索と細胞生物学的機能解析を行った。ニワトリ胚発生中期において、cnil遺伝子は菱脳分節3番、5番に特異的に発現している事を明らかにした。機能解析の手始めに、カルボキシ末端側を欠損したcnil遺伝子産物を、第9期胚後脳部(菱脳分節3番)に電気穿孔法により発現ベクターを導入し、強制発現させてみた。すると神経堤細胞の移動経路選択に異常が生じ、菱脳分節3番側方の通常神経堤細胞が見られない間充織領域にもSOX10陽性の神経堤細胞が侵入した。その結果、鰓弓神経の三叉神経と顔面神経の神経節間で異常な神経線維連絡が生じた。この症状は受容体型チロシンリン酸化酵素ErbB4のノックアウトマウスの表現型に酷似している。ErbB4も菱脳分節3、5で特異的に発現しており、この受容体の関わる経路にcnilが関わっていると推測された。次年度繰り越し分において、この増殖因子の同定とcnilの機能を細胞生物学的に解明する予定である。ショウジョウバエの相同分子であるcornichonは上皮性増殖因子(EGF)の細胞内輸送に関わり、卵形成時の極性形成に重要であることが報告されている。この情報を基に、脊椎動物でのcnilの輸送するであろうEGFリピートを持つ増殖因子を同定する予定である。ErbB4の後脳部でのリガンドはNeuregulinであるとされているが、マウスでの発現パターンは厳密にはErbB4発現領域と重ならない。従って、何か別のリガンドが胎仔後脳部で働いていると予想されるので、この分野の研究進展に大いに寄与するものと考えられる。
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