δEF1(δ-crystallin enhancer factor 1)とSIP1(Smad interacting protein 1)は、共にCACCT配列に結合するzinc fingerをN末とC末に有し、中央にはhomeodomainを持つDNA結合タンパク質であり、zfhx1ファミリー転写制御因子を構成する。胚発生過程において、神経管や体節、筋節などの未分化な領域ではSIP1が、より分化した領域では<i>δEF1</i>が発現している傾向がある。またE7.5でのneural ectodermや、cranial ganglionでは重なり合って発現している。そこで私たちはδEF1とSIP1が胚発生においてどのように使い分けられているか、あるいは役割を共有することがあるのか等の点について明らかにするために、δEF1/SIP1二重ノックアウト(KO)マウスを作製し、δEF1、SIP1それぞれ単独のKOマウスの表現型と比較した。SIP1単独のKOマウスでは神経管が閉じず、前体節中胚葉が伸長し、それに伴い小さく、いびつなsomiteが形成される。さらにδEF1の変異を導入したδEF1-/-; SIP1-/-KOマウスでは、δEFI、SIP1単独のKOと比べて、将来前脳になる領域において、neural ectodermとnon-neural ectoderm境界が不明瞭になり、さらにSox2の発現量が減少するといったことが観察された。また、δEF1単独のKOマウスでは妊娠中期において目立った形態異常は観察されない。しかし、さらにSIP1の変異を導入したδEFI-/-; SIP1+/-KOマウスでは、脳室の形成異常や、神経冠細胞に由来した上顎突起や鼻中隔が閉じないといった表現型が観察された。以上の結果は、これらの組織においてδEF1とSIP1が共に重なり合った、もしくは協調的な役割を果たしていることを示している。
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