研究概要 |
1.テラトカルシノーマ細胞由来分化抑制因子の同定と精製 我々は、これまでの研究からテラトカルシノーマF9細胞の培養上清中には、ES細胞の末分化性維持に効果のある物質が含まれていることを明らかにしてきた。本年度の研究によって、まず、別種のテラトカルシノーマ細胞PCC3細胞の上清にも未分化性維持活性が含まれていることを明らかにした。これらF9細胞あるいはPCC3細胞由来の活性は、ともにES細胞の未分化性をLIF-STAT3シグナルとは無関係に維持できるが、異なった特性を示すこと、そしてWntシグナルなど既知のシグナル系とは異なったシグナル系を利用して機能していることを明らかにした(Kawazoe et ai.,DGD2009:51,81-93)。これらの成果は、ES細胞に対する新規な未分化性維持因子の存在を示唆し、ES細胞をはじめとする多能性幹細胞の分子基盤の解明につながると考えている。 2.HP1ファミリーによるF9細胞の分化促進 F9細胞は、分化能を失っており、ES細胞とほぼ岡様の転写ネットワークを持っているにもかかわらず、胚胎の細胞へは分化できない。このF9細胞からES細胞の分化能に影響を与えられる遺伝子として、HP1βとγの同定に成功した(池田ほか、第45回日本発生生物学会年会)。このうちHP1γをF9細胞で強制的発現させると、F9細胞の分化能は一部回復し、レチノイン酸などの刺激がなくても、分化するようになることを見出した。また、F9細胞では、HP1γの発現が減少していた。これは、HP1γがF9細胞の分化能を制御していること示唆しており、ES細胞の分化のメカニズムを探る一歩となるのみならず、広く細胞分化のメカニズム、特にクロマチン構造と細胞分化との関連を探る上で、大きな意味を持っていると考えている。
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