脊椎動物の大脳の形成機構を明らかにするため、ニワトリ胚における大脳原基の初期部域化について解析を行った。これまでの研究成果から、初期のWntシグナルの関与が明らかになっていたので、shRNAを用いた特異的ノックダウンによってその作用実体たるリガンドの特定を試みた。候補配列から多数のshRNAコンストラクトを作成し胚に導入したが、有意に発現を低下が見られたものはなかった。次に、DVR構成細胞の誕生時期を同定するため、異なる発生段階でBrdU溶液を卵白に注入し、艀化直前まで発育させ標識細胞の分布を調べようとした。しかし、BrdUの投与により著しく生存率が低下し、また組織の形成不全等も多く生じたため、この方法での追求を断念した。替わって、大脳側脳室内に投与する方法について、至適条件等の検討を行った。初期神経板における区画化の意味を探るため、Six3の発現によって規定される細胞集団の細胞系譜を追跡することを試みた。Six3遺伝子座をカバーする約200KbのBACクローンを購入し、大腸菌内の相同組換えを利用して、Six3遺伝子座にCre-ERT2を挿入したターゲティングコンストラクトを作成し、組み換えをおこしたES細胞を複数系統単離した。これを用いてノックインマウスを作成中である。次に、マウスでは大脳皮質の領野形成に関与する背側正中線に発現するFgf8の鳥類脳での役割を明らかにするため、エレクトロポレーションをもちいた機能元進および阻害実験を行った。実験検体では有意に大脳組織の形成に異常が認められたものの、導入遺伝子の発現が一過的であるため、導入時期と解析時期に大きな隔たりのある本件のようなケースでは、導入された細胞と表現型との間に明確な因果関係を追求することが困難であった。この問題の解決のため、改変型トランスポゾンを利用して、長期恒常的にマーカー遺伝子を発現するような遺伝子導入システムの開発を試み、予備的ながら良好な結果を得た。
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