本研究は、消化器官の発生において、将来幹細胞として細胞の新生に関わるようになる細胞が、どのように発生し、どのような機能をもつかを解析するものである。幹細胞は現今の医学、生物学、とりわけ再生医療において中心的役割が期待されているが、発生過程におけるその挙動は必ずしも明らかではない。本研究では、その形態形成と細胞分化の過程が詳細に明らかにされているニワトリ胚胃(前胃)をモデルとして、幹細胞を同定することを第一の目標とした。これについては、musashi-1やPPARといった細胞の分化に重要な役割を果たす遺伝子(産物)に注目してその発現を調べ、後者については機能解析を行った。また、幹細胞を純粋に単離してその分化をin vitroで解析する準備段階として、前胃上皮細胞の細胞培養系の樹立に多くのエネルギーを費やした。これまで、鳥類にしても哺乳類にしても、胚期の消化器官上皮細胞を長期間にわたって培養した例は少なく、まして細胞の分化に着目した実験はほとんどない。本研究では、ニワトリ6日胚の上皮細胞を、いくつかの基本的増殖因子を添加した培養液で培養し、消化器官上皮細胞としての性格を与える遺伝子(sonic hedgehog、foxa2)、胃の上皮細胞のマーカー遺伝子(cSP)、そして胃の腺上皮細胞のマーカー遺伝子(ECPg)の検出を試みた。またそれら遺伝子の発現に対する間充織因子の影響を調べた。その結果、消化器官上皮細胞のマーカー遺伝子は間充織因子を添加しなくても発現し、間充織因子の存在下でcSPが発現するが、ECPgはいずれの条件でも発現しなかった。このことは、間充織因子の今後の解析によって、前胃上皮細胞を希望する条件で培養することが可能になったことを示し、これによって上皮細胞中に存在する幹細胞を同定し、純粋に培養する可能性が生じた。
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