ヒトやマウスの嗅覚神経系は、嗅覚受容体(odorant receptor:OR)によって数十万もの匂い分子を識別している。OR遺伝子はゲノム上最大の遺伝子ファミリーを形成する多重遣伝子であり、その総数はマウスにおいて約千個に及び、全遣伝子の5%を占める。嗅神経細胞におけるOR遺伝子の発現は、免疫系の抗原受容体遺伝子と同様に、1つの細胞で1種類の遺伝子が、対立遺伝子の一方からのみ発現するという極めて興味深い発現様式をとる。しかしながら、その遣伝子発現制御機構は明らかになっていない。嗅覚受容体多重遺伝子ファミリーは、大きく分けて2つのタイプ(水棲型OR遺伝子:クラス1、陸生型OR遺伝子:クラス2)に分類される。我々のこれまでの研究から、LIMホメオドメイン型転写因子Lhx2が、クラス2嗅覚受容体遺伝子M71のプロモーター領域にあるホメオドメイン配列に結合すること、またLhx2遺伝子欠損マウスでは調べたすべてのクラス2嗅覚受容体遺伝子の発現がなくなっていることが明らかとなっている。本研究では、Lhx2遺伝子欠損マウスにおけるクラス1嗅覚受容体遺伝子の発現を解析した。その結果、クラス2遺伝子とは異なり、クラス1遺伝子はLhx2遺伝子欠損マウスにおいて発現していることが明らかとなった。これらの結果から、クラス1およびクラス2嗅覚受容体多重遺伝子は、それぞれ異なる遺伝子発現制御機構/経路をもっていることが示唆された。
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