研究代表者は、脊椎動物初期発生における母性因子の機能と役割を解明するため、ゼブラフィッシュを用いたフォワード遺伝学的手法に基づく研究を行った。 まず第一に、尾芽伸張や中脳-後脳境界オーガナイザー形成に異常をきたす母性効果変異体bobtai1の解析を行った。この変異体の責任遺伝子は、ポジショナルクローニングにより、モリブデン補酵素生合成に関与するMOCS1遺伝子であることが判明していた。研究代表者は、Fgf8タンパク質をしみ込ませたビーズの移植実験等により、bobtailではFgfシグナルに対する応答能が著しく低下していることを明らかにした。このFgfシグナルの異常は、MOCS1がコードする酵素の産物でモリブデン補酵素生合成の中間生成物であるcPMP (cyclic pyranopterin monophosphate)を1細胞期に微量注入することで完全にレスキューできた。このことから、モリブデン補酵素生合成系はFgfシグナルを介して初期発生と関わることが示唆された。さらに研究代表者は、bobtailの表現型が硫酸イオンを含む溶液中で胚を培養することによって完全に回復することを見いだした。モリブデン補酵素は、亜硫酸イオンを硫酸イオンに変換する亜硫酸オキシダーゼの補酵素として働く。また、Fgfリガンドとレセプターの結合は細胞外マトリックスの構成成分であるヘパラン硫酸プロテオグリカンを必要とし、ヘパラン硫酸はその活性に硫酸基の付与を必要とする。以上のことから研究代表者は、脊椎動物初期発生においてモリブデン補酵素生合成が重要な役割を持つことを初めて明らかにし、それは亜硫酸オキシダーゼへの補酵素供給による硫酸イオン生成、ヘパラン硫酸への硫酸基付与を通じてFgfシグナル経路を活性化することによってなされるとのモデルを提唱した。 第二に、トランスポゾンを用いた新しい母性効果変異体の単離法の開発を行った。これまでに、卵子の動植物極性形成に異常をきたす変異体を見いだした。現在この変異体について解析を行っている。
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