線虫生殖巣のU字型の形態は、生殖巣原基の両端に1つずつ存在するリーダー細胞(DTC)がその移動をリードすることにより形成される。その過程において基底膜分子・フィビュリン-1は、生殖巣の伸長と生殖巣上皮の強度の維持に必須の役割を果たす。すでに我々は、フィビュリン-1依存的な細胞移動制御メカニズムの解明を目的とし、フィビュリン-1の機能欠損型変異体fbl-1(tk45)において引き起こされる、顕著なDTCの移動異常と不稔の表現型を抑圧できる5つの遺伝子(tk75-tk79)を分離した。そのうち2株の優性変異(tk75およびtk76)は、野生型同様の形態を持ち捻性が強く回復した抑圧変異であることから、今年度はそれらについて解析を行なった。 (1)fbl-1(tk45)変異体のサプレッサー遺伝子tk76およびtk75のクローニング。 tk76変異体マップ領域内の予想遺伝子の塩基配列の解析の結果、基底膜の主要成分であるIV型コラーゲンのα1サブユニットEMB-9蛋白質のNC1ドメイン内にミスセンス変異を見つけた。遺伝子をコードするゲノム断片をサブクローンした後、変異型のトランスジーンがfbl-1(tk45)変異体の表現型を抑圧できることを明らかとした。tk75変異はtk76変異と同一な変異であることが判った。 (2)fbl-1(tk45)変異体のサプレッサー遺伝子の機能解析。 tk45変異体の生殖巣基底膜でEMB-9/IV型コラーゲンおよび基底膜蛋白質のナイドジェンの局在が顕著に減少していることを明らかにした。一方、変異型のEMB-9(tk75)はtk45の遺伝的背景でも顕著に局在がおこり、ナイドジェン蛋白質もほぼ正常に局在した。以上の結果から、IV型コラーゲンのNC1ドメインがフィビュリン-1による基底膜の制御に関与する可能性が明らかとなった。
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