クロミスタ仮説に基づくと、不等毛植物類・ハプト藻類・クリプト藻類は単系統であり、これらの生物群の共通祖先でクロロフィルa+cタイプ葉緑体を獲得したと考えられる。ところが、現在までの核遺伝子配列をもちいた分子系統解析は、上記3生物群の単系統性を支持していない。本計画の研究対象であるカタブレファリス類は、クリプト藻類と姉妹群を形成する可能性が示唆され、クロミスタ仮説の検証にはカタブレファリス類配列が不可欠である。 本研究計画では、(1)カタブレファリス類がこれまで認識されたクロミスタ生物群とどのような系統関係にあるのか、(2)カタブレファリス類を含めたクロミスタ生物群が真に単系統であるのか、の2点を、複数遺伝子配列を連結した分子系統解析により検討する。作成した系統解析に用いるアライメントデータにはアミノ酸組成の偏りがある場合、アミノ酸データをその側鎖の性質から6種類のカテゴリーに分けた置換マトリックスを使用し解析する。また遺伝子特異的シグナルに起因する推定の偏りの有無を調べるため、連結データから交互に1遺伝子を抜き取り、系統推定にどのような影響を与えるか解析する。 現在までに2種のカタブレファリス類を購入した。現在、分子系統解析用マーカー遺伝子の単離に向けて実験中である。これと平行して、真核生物系統樹中での不等毛植物類・ハプト藻類・クリプト藻類の系統関係を、102核コード遺伝子配列データを用いて解析した。この解析にはカタブレファリス類配列は加えられていないが、興味深いことにハプト藻類とクリプト藻類の単系統性が極めて強く支持された。この研究成果はCurrent Biology誌(英文・査読付)に掲載が決定している。カタブレファリス類配列を加えた解析で、クリプト藻類とハプト藻類の関係が興味深い。また、この解析で蓄積した連結データ解析の知見は、今後カタブレファリス類配列の解析に生かすことが可能である。
|