ゲノムプロジェクトを始めとする近年の分子生物学の発展により、大量のDNA・タンパク質配列データが遺伝子データバンクに蓄積されるに至った。分子系統樹の必要性はもはや系統分類学的解析だけにとどまらず、遺伝子ファミリーやゲノムの進化、遺伝子機能の進化学的解析、進化発生学など様々な分野で利用されるようになった。現在、分子系統樹推定の方法論は、主に理論的側面に長ける最尤法と計算効率に長ける近隣結合法に二分される。そこで、最尤法の優れた点を近隣結合法に導入することにより、大量配列データの解析にも使用できる新たな分子系統樹推定法の開発を試みた。具体的には、すでに開発済みの複合尤度(composite likelihood)を用いた最尤法により、距離行列を構成する全ての2配列間距離を一括推定する方法をさらに発展させた。平成19年度は、複合尤度を用いてのDNA塩基配列内でのサイト間置換率変異の推定法開発を試みた。複合尤度を用いる利点は、配列間の比較をサイト毎に行う必要が無く、それによって計算時間を大幅に短縮できることであるが、サイト間置換率変異の推定にはサイト毎の比較を避けることはできず、推定自体はある程度成功したものの、複合尤度を用いる利点は無いことが分かった。一方、複合尤度を用いる方法と最尤法の系統樹推定精度をコンピュータシミュレーションによって比較するため、新たに最尤系統樹推定アルゴリズムの開発を行い、その結果、現在最速といわれるPhyMLを凌ぐ高速アルゴリズムの開発に成功した。また、複合尤度を用いた方法が、最尤法の推定に必要な初期値を求めるために有効な方法であることが分かった。
|