研究課題
基盤研究(C)
脊椎動物の性決定遺伝子は、XX/XY型性決定様式を持つ哺乳類及び魚類メダカにおいて、そのY染色体上にそれぞれSRY、DMYが同定されているが、その他の動物種では未同定である。本研究では、ZZ/ZW型様式のアフリカツメガエルにおいて、そのW染色体上の遺伝子DM-Wの単離、発現解析及び遺伝子導入個体の解析等を行い、DM-Wが性(♀)決定遺伝子であることを強く示唆する結果を得た(PNAS 2008)。更に、DM-Wは、構造解析から哺乳類以外の脊椎動物で精巣形成遺伝子と考えられるDMRT1の重複(転写活性化領域は欠失)によって分子進化した事、DM-Wタンパク質はin vitroでDMRT1タンパク質の転写活性化能を抑制する事、DM-Wは雌性ホルモン合成酵素アロマターゼの遺伝子発現を上方制御する事もわかった。メダカ性決定遺伝子DMY(DMRT1の欠失なき重複によって分子進化)、ショウジョウバエ・線虫の性決定に関わるDM型遺伝子(DMRT1の先祖型遺伝子)、等の現在までの知見を考え併せ、私は動物における性決定遺伝子の分子進化に関し、以下の進化的仮説を提案する。<無脊椎動物のある原始的な種で、DM型遺伝子が性の決定に関わり、脊椎動物では、そのDM型遺伝子の重複進化過程で、DMRT1が精巣形成上位の遺伝子として分子進化した。脊椎動物の性決定遺伝子は、種分化に伴い、DMRT1或はアロマターゼ遺伝子をどう制御するかというヒエラルキー闘争の中、それぞれ独自の性決定システム構築過程で分子進化した。このコンテクストにおいて、性決定遺伝子は、種分化に伴いそれぞれ異なる事が予想され、DMRT1、DMRT1重複遺伝子、DMRT1発現制御遺伝子、或はアロマターゼ制御遺伝子が性決定遺伝子となったと考えられる。哺乳類に限っては、性決定システム変換の中で、SRYが登場してきたと想像される。
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