研究概要 |
大腸菌の実験室進化による耐熱進化大腸菌の構築、高温適応進化過程における挙動解析、および相互作用解析と耐熱進化大腸菌のゲノム構造解析を目的として研究を実施した。大腸菌の実験室進化系として、増殖速度を一定に保つ継代培養系を構築し、培養温度を高温に変化させることで高温適応進化を行った。耐熱進化大腸菌に関しては、37℃培養から始め39,41,43,45℃の各温度に適応進化した大腸菌の構築に成功した。45℃安定増殖大腸菌は、最小培地で増殖する大腸菌としては最高温度に属するものである。また、39℃適応進化過程において、温度変化直後に増殖速度の低下と細胞内部のタンパク質量(GFP蛍光)にバラツキが生じ、その後増殖速度の回復、バラツキの収束が10-20日程度の範囲で生じることが確認された。このことは、高温への環境変化直後に細胞内部環境がバラツキ、大腸菌集団内部に多様性が生じ、適応してゆく可能性を示唆していると考えられた。また、45℃適応進化において、適応初期に大腸菌密度依存的な増殖が起こり、培養液中の増殖誘導因子により生じていることが確認され、耐熱進化におけるQuorum Sensingの可能性が示唆された。Quorum Sensingを生じさせる物質の候補の同定を試みた。興味深いことに、高温適応進化するに従い大腸菌のゲノムDNA含量が増加し、GC含量が低下する傾向がみられたが、タンパク質レベルでの発現変化は多くないことが判明した。以上のことから、大腸菌耐熱進化は、大腸菌集団内での多様化や相互作用を通して適応がおこり、適応大腸菌への表現型の固定の際にゲノム含量やGC含量に変化が生じている可能性が示された。現在、45℃適応進化大腸菌のゲノム構造、発現遣伝子をDNAチップを用いて解析中であり、また新たなQuorum Sensing誘起物資の同定も実施している。
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