研究課題
基盤研究(C)
日本人の起源に関する二重構造仮説では、縄文人は東南アジアと考えられている。しかし、最近の、特に遺伝学的研究では、縄文人と北東アジア集団の密接な関係がより多く示唆されている。本研究は、元々形態学的な視点から考えられた縄文人の東南アジア起源説を、同じ形態学の立場から再検討し、縄文人の起源を洗いなおすことを目的として開始された。縄文人の東南アジア起源説における最大の根拠は、歯の形態学的特徴、つまり縄文人・アイヌが東南アジア集団の歯形態を特徴づけるスンダ型歯形質を有することである。しかし、この類似性が本当に系統関係を表しているのか、あるいは見かけ上の平行進化的なものなのかは、ほとんど検討されていない。そこで、本年度はとくに歯の形態を再検討することに主眼を置き、分析を進めた。歯に限らず、頭蓋、四肢骨などの形態的特徴の記載、分析は計測と非計測に大別される。上記のスンダ型歯形質は非計測的観察によるものであるが、本年度は特に縄文人、アイヌの歯の計測的な特徴を分析した。その結果、縄文人、アイヌの歯は、その絶対的な大きさに関しては、周辺諸集団はもとより、東南アジア集団よりもはるかに小さく、おそらく世界的にも非常に小さな歯をもった集団であることが再確認された。さらに、相対的な歯の大きさ、すなわち形態因子については、アイヌは新大陸の先住民(アメリカインディアン)や北東アジア集団に類似しており、また、縄文人はこれらの集団とはやや離れるものの極北集団と類似性を示した。これらのことは、縄文人、アイヌの歯冠形態において、計測的特徴では東南アジアとは特に類似性を示すことはなく、むしろ北東アジア集団、あるいはそれと密接な関係をもつ集団に類似することを示すものであり、この点において、上述の遺伝学的結果と近い結果が得られたといえよう。しかし、それでは非計測的特徴でどうして縄文人、アイヌは東南アジア集団と強い類似性を示すのか。これを解明するためには、まず、歯の形態に関して非計測的特徴と計測的特徴がどの程度関連するのかを再度検討しなければならない。来年度はこの点を中心に分析を進める予定である。
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Anthropological Science (In press)
Anthropological Science 114
ページ: 141-151
Bioarchaeology of Southeast Asia, Cambridge University Press 43
ページ: 91-111