近年様々な植物からゲノム中を動く転移因子が多数発見され、それによって生じる多様な遺伝的変異の実体が明らかにされてきた。転移因子によって生じる変異を植物は進化の原動力として利用してきたとの証拠も増えつつある。しかし、それは種分化程度のレベルで論じられてきた議論であり、極めて短い世代レベルでの転移の様相は殆ど知られていない。実際には、転移因子は細胞分裂ごとに、あるいは世代を更新するたびに転移し得る。自殖性植物のイネにおいても5種類のDNA型可動性転移因子、トランスポゾンが発見されており、品種内で遺伝的な分化が起こっている可能性もある。 本研究課題では、品種の遺伝的均一性の評価および品種作成に伴う遺伝的不安定性の検証を目的として、日本各地より集められたコシヒカリや品種育成過程のイネ系統およびイネ近縁野生種間の交雑F2集団など、イネを材料に可動性転移因子の転移に着目して集団内および系統内のゲノムの比較解析を行なった。平成18年度、トランスポゾンによってゲノム構造がコシヒカリの品種内で変化してきていることを明らかにした。平成19年度は、転移因子の活性化を引起す遺伝的要因をさぐる基礎的な知見を得るための実験をおこなった。本研究は完了には至っていないが、実施年度に得られた関連する成果を以下に記す。コシヒカリの産地間で顕著な多型を示すトランスポゾンm-pingを特定した。培養変異の主要な原因がトランスポゾンと関連するか否かを20年以上の長期にわたって継代培養されているカルスを調査し、培養変異の実体を明らかにし、イネカルスでは塩基置換による変異が圧倒的に多数を占めることを見いだした。また、多様なトランスポゾンがイネゲノムにどのように存在しているのかその実体をDNAメチレーションに着目して解析した。研究の実施期間中に、キンギョソウのトランスポゾンTam3に関して、転移を制御する多彩なメカニズムが存在することを示した。
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