研究概要 |
サツマイモ野生種(Ipomoea trifida)の自家不和合性の分子メカニズムを解明するために,昨年度より解析を続けているS1,S10,S29-Sハプロタイプに加え,S3,Sc(自家和合性)-SハプロタイプよりS遺伝子座周辺領域を単離し,ゲノム配列の解析を行った。 これまでの解析で明らかになっているS候補遺伝子が,各ハプロタイプのS遺伝子座周辺領域に見いだされたが,自家和合性系統Scにおいては一部遺伝子のプロモーター領域中に顕著な変異が見いだされ,これが自家和合化の原因であるとも考えられた。 各SハプロタイプのS遺伝子座周辺領域を比較したところ,ハプロタイプ間で顕著な配列の変異が集積している領域(S-locus diversity region)が見いだされ,当該領域中に存在しているS候補遺伝子は,雄側遺伝子であるAB2,雌側遺伝子であるSE2,SEAであり,これらがサッマイモ野生種の自家不和合性を制御している可能性が非常に高い。 更に,各ハプロタイプのSDR長の比較を行ったところ,自家不和合性の優劣関係(S29>S1>S10>S3)に従って優性系統ほど長く劣性系統ほど短い傾向が見られた。加えて,優性側系統のSDRにおいては,種々のトランスポゾン様配列,反復配列,オルガネラゲノム断片様配列が挿入されており,各配列の挿入部位以外は比較的保存されていた。以上の点を総合すると,サツマイモ野生種の自家不和合性においては,劣性側系統から優性側系統が派生してきたと考えるのが妥当であると推定された。 またSc系統に関してはSDR長から考えると,優劣関係でS1とS10の間に位置する系統から派生したと考えられ,この結果は交配試験とも矛盾しない。Sc系統は自家和合性であるにも関わらず,優劣性関係は維持されており,このことは,自家不和合性の優劣性決定はS遺伝子自身が規定しているのではなく,S遺伝子座上に座乗する他の遺伝子が規定していると考えられた。
|