本研究では省エネ・低コスト貯蔵の手段としてエタノール蒸気を用い、収穫後ブロッコリーの老化(黄化)抑制について、ブロッコリー小花のエチレン生合成への影響と栄養学的見地からアスコルビン酸の保持についてその機構を明らかにした。エタノール蒸気処理は"アルコールパウダー"(シリカゲルにエタノールを吸着したもの)により、ブロッコリーを入れた有孔ポリエチレン袋にこのパックを封入することにより行い、20℃のもとで貯蔵した。 エタノール処理により黄化が抑制され、エチレンの発生も抑制された。エチレン生合成のキー酵素であるACC合成酵素とACC酸化酵素の活性も抑制された。また、同時にエチレン処理を併用したものでもエタノール蒸気により両酵素活性は抑制され、エチレン処理の影響が打ち消された。これらについてACC酸化酵素のタンパク質量とその遺伝子発現を調査したところ、エタノール蒸気により抑制された。 アスコルビン酸については、エタノールの蒸気処理により、対照区(無処理)に比較して、その含量の減少が抑制された。老化の進行と活性酸素種の挙動とは密接な関連がある。そこで活性酸素種を消去する抗酸化システムに着目し、エタノール蒸気処理がブロッコリー小花の抗酸化システムに及ぼす影響について調べた。過酸化水素含量は、貯蔵期間5日を通じて処理区では無処理区に比較して低かった。また、Superoxide dismutase(SOD)、Catalase(CAT)、Ascorbate peroxidase(APX)の活性は貯蔵期間を通じて処理区は無処理に比べ高かったことから、スーパーオキシドラジカル及び過酸化水素を効果的に消去し、過酸化水素含量のレベルを抑制しているものと考えられる。また、アスコルベート・グルタチオンサイクルを構成する、Dehydroascorbate reductase(DHAR)、Glutathione reductase(GR)の活性は、貯蔵期間を通じてエタノール蒸気処理区では無処理区より高かった。このことにより、酸化型アスコルビン酸、酸化型グルタチオンを還元型にしてこのサイクルの働きを保ち、過酸化水素を効果的に消去していることが示唆された。
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