研究概要 |
カンキツはミカン科ミカン亜科に属する世界および日本で最も生産量の多い重要な果樹であるが,その成立については不明な点が多い。本研究では遺伝子の担体である染色体情報を解析することによって,この点について解明する。 今年度は,染色体に関して既に多数の報告のあるカンキツ属,カラタチ属およびキンカン属以外のミカン亜科植物の染色体情報を得ることを主目的として研究を実施した。 カンキツ属,カラタチ属およびキンカン属以外のミカン亜科植物19属33種の染色体数を調査した結果,31種の染色体数は2n=18であった。しかし,Citropsis gilletianaの染色体数は2n=36であり,四倍体であることが判明した。また,Glycosmis pentaphyllaでは2n=18と2n=54の細胞が混在しており,倍数性キメラであると推定された。Citropsis gilletianaでは2n=18とする報告もあり,種内における倍数性変異が示唆された。 続いて,グアニンーシトシンに特異的であるクロモマイシンA_3(CMA)により各染色体を分染して,その多様性を解明し,その面からミカン亜科植物の進化について検討した。CMA染色によって,形態的には分類が困難な染色体の識別が可能になった。各種はそれぞれ特有の染色体構成を示し,ミカン亜科植物が染色体レベルでの多様性を有し,染色体情報がミカン亜科植物の進化を検討する上で極めて重要な情報であることが確認できた。従来の果実・樹体の形態面からの情報と対応させると,染色体のCMA(+)領域は,進化に伴い増加することが認められ,これが進化の程度の指標となり得るものと考えられた。 さらに,染色体上の遺伝子の相同性を明らかにすることに有効であるGenomic in situ hybridization(GISH)により,ミカン亜科植物間の近縁性を解明することにも着手した。
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