昨年度までに、クラブアップルの主要な生理活性ポリフェノール化合物が、エピカテキンとプロシアニジン類であることを見出した。また、両物質の果実内含量の季節変動を調べたところ、夏から秋にかけてエピカテキンが重合してプロシアニジン類を生じている可能性が示唆された。エピカテキンからプロシアニジン類を生じる生合成酵素はまだ解明されていない。エピカテキンの物質レベルでの変換条件を検討するため、種々の条件下でエピカテキンの化学変換および生物変換を試みた。これまでにも試験管内で塩基性条件下にした時、無酵素的に重合が起こることが知られていたが、果実抽出物を加えた無細胞系では、塩基性でなくても変換されることを新たに見出し、果実内成分の関与が強く示唆された。今後の酵素探索に役立つ知見と考えている。食物繊維については、調べた品種間では水溶性繊維は同程度だったが、不溶性繊維を特に多く含む品種が見つかった。ポリフェノール生合成系の酵素遺伝子については、クラブアップル品種のゲノムDNAを用いて、ジヒドロケルセチンからケルセチンへの代謝に関与しているFlavonol Synthase(FLS)遺伝子ホモログを、PCR法によって同定した。クラブアップル由来のFLS遺伝子の全長配列を決定した。全長約4kbpで3ヶ所のエクソンで構成され、推定アミノ酸は337個であった。リンゴ品種“ふじ"由来のFLS遺伝子やセイヨウナシ品種“Confbrence"由来のFLS遺伝子と98%以上の高い相同性を示した。また、第一エクソンでは3種類のホモログが検出され、クラブアップル由来のFLS遺伝子ファミリーの存在が示唆された。今後は、これまでの成果を論文に集約する。また、一方では果実内成分の中からのエピカテキン重合酵素の探索を進め、他方ではポリフェノール生合成系酵素の遺伝子レベルでの解析を、品種間や季節間の消長について進め、有用クラブアップル品種創出への基礎資料としてまとめていく予定である.
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