研究概要 |
これまで、成熟相にあるカキのカルスからの植物体再生は専ら不定芽形成によるもので、その増殖効率は必ずしも高くなく、また、不定芽形成後のシュートに発根処理過程を必要とするため、発根の難易が増殖上の大きな問題であった。しかし、不定胚形成が可能になれば、この問題はたちまち解消するはずであるが、これまで成熟相組織を用いて不定胚形成に取り組んできたものの、まだ成功に至っていない。そこで、本研究では幼若組織である未熟種子(品種‘水島')の胚軸と、成熟相組織である品種‘次郎'の葉原基由来カルスと培養シュートの葉切片を用いて、不定胚誘導に対する植物ホルモンの効果を比較検討した。その結果、植物ホルモン・ベンジルアデニン(BA:3μm)と2,4-D(30μM)を組み合わせて添加したMS培地では`水島'胚軸はカルス化した後、球状胚が形成され、ホルモンフリ-培地に継代培養することにより魚雷型胚、子葉型胚を経由して発根・シュート形成し完全な植物体を再生した。しかし、‘次郎'の成熟相組織ではBA,2,4-Dの組み合わせ培地ではカルス化後に何ら分化は認められなかった。いっぽう、フェニルウレア型サイトカイニンであるチジアズロン(TDZ)を添加(1,5,10,30,60μM)したMS培地では、胚軸由来カルスからは低濃度(1μM)でシュート、中濃度(5〜10μM)で葉状体、高濃度(30〜60μM)で不定胚が、それぞれ誘導された。また、‘次郎'の葉切片培養でもカルス形成後高濃度のTDZ添加培地で不定胚が誘導された。しかし、TDZで誘導された不定胚は、胚軸組織でBAと2,4-Dで誘導された不定胚とは異なり、その誘導はきわめて限定的であり、かつ、シュート形成や発根はみられなかった。以上の結果より、カキの成熟相組織でもTDZによって不定胚が誘導されることが明らかとなったが、完全な植物体を再生させるためには培地条件の更なる検討が必要であった。
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