クライマクテリック果実であるマンゴー果実の成熟過程、貯蔵過程におけるエチレン生成と機能発現の機構を明らかにし、マンゴー果実の貯蔵性を高めるための技術開発に結びつく基礎的研究を行うことを目的として、異なる成熟段階のマンゴー果実における、エチレン生合成酵素遺伝子の発現を解析した。平成20年度は、低温で貯蔵した際のエチレン関連遺伝子の発現を解析し、果実の成熟段階と低温障害との関連、およびエチレン生成について考察した。 はじめに、緑熟期および収穫適期のマンゴー品種Irwinの果実を低温(8℃)で保蔵し、経時的にエチレン生成と呼吸活性を測定した。次に、それぞれの果実の果肉RNAからcDNAを合成し、エチレン生合成遺伝子であるACC合成酵素(ACS1)、およびACC酸化酵素(ACO1)遺伝子に対するプライマーを用いて、それぞれの遺伝子発現を定量PCRにて解析した。 その結果、緑熟果実は収穫適期のマンゴー果実と比較して短い貯蔵期間で低温障害の発生が認められた。温浴により熱処理(46℃、15分)を行ったところ、どちらのステージの果実でも低温障害の軽減が認められ、熱処理果実では、無処理果よりもエチレン生成が抑制されていた。エチレン生合成関係の遺伝子発現には、ステージによる違いが認められた。すなわち、緑熟果実では、低温貯蔵後3日後に著しく高くなったACS1とACO1の発現が、熱処理により抑制されていたのに対して、収穫適期の果実では、ACS1発現量は非常に低く、エチレン生成量との相関は明らかでなく、ACO1の発現がレベルは低いもののエチレン生成の様式と一致していた。 以上のことから、マンゴー果実の低温障害に対して熱処理(46℃、15分)は障害低減に有効であること、また、緑熟果実は収穫適期の果実より低温感受性が高く、低温処理によるエチレン生成も大きいことから、貯蔵や輸送には収穫適期の果実が適していることが示唆された。また、緑熟期の果実は収穫期と比較してエチレン生合成や情報伝達系が活性化している可能性が示唆されたため、貯蔵や輸送時にエチレンを制御することが重要であると考えられた。
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