植物組織の老化抑制に関わるポリアミンと老化促進に関わるエチレンという逆の生理作用を示す経路がS-アデノシルメチオニン(SAM)を介して繋がっているため、この拮抗性は基質であるSAMの競合によるとする考えがある。そこで、果実への1-methylcyclopropene(1-MCP)処理によりエチレン合成経路を抑制した時に、ポリアミン合成経路に及ぼす影響について調査した。 1)果実硬度は対照区では急速に減少したが、1-MCP処理した果実では、硬度の減少は有意に抑制された。この硬度の変化はエチレン生成量と対応し、1-MCPでエチレン生成を抑制した果実で果肉硬度が高かった。さらに、この時のエチレンの生成パターンとエチレン生合成関連酵素遺伝子の発現パターンは概ね一致していた。 2)S-adenosylmethionine脱炭酸酵素遺伝子1(MdSAMDC1)の発現パターンは、1-MCP処理した果実と対照区の果実の間で顕著な差異は認められなかった。一方、MdSAMDC2の発現は明らかに対照区の果実での発現レベルと比べて、1-MCP処理した果実で抑えられていた 3)処理後4日目の果実でプトレシン含有量が1-MCP処理した果実で有意に高かった以外には、1-MCP処理の有無によるプトレシン含有量に大きな違いは認められなかった。スペルミジン含有量ては1-MCP処理した果実の処理後4日目までは増加し、処理後17日までは対照区の果実に比べて高いレベルを維持していたが、それ以降のスペルミジン含有量は統計的に有意ではないが逆に対照区の果実で高い傾向を示した。スペルミンについては、統計的に有意な差は無かった。 以上から、拮抗的な関係は1-MCP処理した初期段階には存在していたが、貯蔵後半にはポリアミンに対するホメオスタシスが作用し、果実間で拮抗的な差異は消失した。そのため、1-MCPによる果実の貯蔵効果はポリアミンというよりも1-MCPのエチレン生合成を直接抑制する効果のためであると考えられた。
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